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November 13, 2016

【大統領選挙】トランプは情報に裏付けられた戦略で勝った。

アメリカ大統領選挙は事前の予想を裏切りトランプ氏が次期大統領に選出されました。僕も驚きました。大半のマスコミの予想を覆しただけに、多くの分析がされています。しかし、少し調べてみると、実はトランプは過激な発言やメディア戦略だけで選挙に勝ったわけではないことに気が付きました。ところがマスメディアが全くそれに触れられていないので、久しぶりのブログ記事ながら偉そうにそういうことを記事にしてみました。

1)大統領選挙の仕組み
まず、大統領選挙を分析するには大統領選挙の制度を理解する必要があります。大統領選挙は、よく直接民主制だ、と言われていますが、実は州別に選ばれる選挙人が最も多い人が勝つ制度です。メイン州とネブラスカ州を除くとその州で勝った候補がすべての選挙人を得ることになっています(メインとネブラスカは上院分の割り当てをその州で勝った候補に振り分け、下院分の割り当ては下院の選挙区での勝敗で振り分けるやり方。)したがって、単純に得票が多くするのではなく、選挙人を多くとれるようにすることが重要です。どんなに選挙人が多いカルフォルニア(55人)やニューヨーク、フロリダ(29人)であっても、歯が立たないならそこに固執せず、とれる州で取り返すほうが得策、ということになります。

2)青い州と赤い州、そしてクリントンの郵政
ところが、州には民主党が強くて基本的に民主党候補が強いブルーステート、逆に共和党が強いレッドステート、そしてそのどちらでもないスイングステートが存在します。Wikipediaの該当記事を読むとわかりますがが、直近の6回の選挙で区切ると、青い州はワシントンDCと18州で選挙人242人、一方レッドステートは22州あるものの選挙人では180人しかありません。この時点でクリントンのほうが優勢なのは明らかです。簡単にいえば、ブルーステートをすべて抑えて、スイングステートで選挙人が最大の29人いるフロリダを抑えるだけで勝てるということです。
http://www.weekly-economist.com/2016/10/25/第二特集-直前-米大統領選-2016年10月25日特大号/

3)トランプの戦略
そこで、おそらくトランプがとった戦略は以下の通りです。
・レッドステートは引き続き全部抑える。
・スイングステートはなるべく全部抑えるが、フロリダだけは絶対に落とさない。
・ブルーステートで勝てる州を奪いに行く。
そして早い段階で、トランプは北中部にあるラストベルトという地域に目をつけます。ラストベルトというのは、昔は鉄鋼や自動車で工業が発達したものの、その後没落し、徐々に活気を失っている地域のことで、5大湖周辺の地域。州でいえば、イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニアの各州を示しています。
http://www.crosscurrents.hawaii.edu/content.aspx?lang=jap&site=us&theme=work&subtheme=INDUS&unit=USWORK059
この地域は、以前は工業が発達し、労組支援より、民主党が非常に優位を保ってきましたが、最近の自由貿易政策による経済衰退で支持層が弱くなっており、付け入る可能性が出たと見たわけです。具体的には、オハイオ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアを集中的に攻めたわけです。
さらに、トランプの選挙参謀は6月の段階で非常に明確な方針をしゃべっています。
「国民の世論を得るために、(クリントンは)ニューヨーク州やカリフォルニア州のヒスパニックに頼りすぎだ。人口が多く、急進的なヒスパニックがいる地域だ。オハイオ州やペンシルベニア州、フロリダ州などのアメリカのヒスパニックを見てみると、違う構図が見えてくる。我々はその3州や他のスイング・ステートのヒスパニック票をターゲットにしている」
http://www.huffingtonpost.jp/2016/06/10/donald-trumps-top-adviser_n_10391542.html
ヒスパニックという層を単純化せず、各州の特性に合わせた戦術をとることにしたということです。

4)指名受諾演説と参謀の戦略
予備選を勝ち抜いたトランプとクリントンは8月に、それぞれの党大会で指名受諾演説をしていますが、ここで大きな違いが出ています。
それぞれの指名受諾演説はNHKで見ることができます。
トランプ:http://www3.nhk.or.jp/news/special/2016-presidential-election/republic3.html
クリントン:http://www3.nhk.or.jp/news/special/2016-presidential-election/democratic4.html
この演説は、トランプには具体性がない、失笑が出るダメな演説、クリントンは明確な素晴らしい演説という論評がされましたが、結果が出た後から見ると異なる評価になるのではないでしょうか。
トランプの指名受諾演説には、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルバニアといったラストベルト地域に仕事を取り戻すという明確な意思が見ますし、フロリダにもテロを起こさないという明確な意思があります(どうやるかは、インフラ投資くらいしか言っていませんが)。ところが、クリントンの受諾演説ではラストベルトに仕事を取り戻すというトランプに反論をしていますが、そこにどうするか?という具体案がありません。全国的な政策は主張しているが、どこの州で何をするのかが分かりにくい演説になっています。

5)キャンペーンラリー
そして、選挙終盤のキャンペーンラリーは明らかにクリントン防戦、トランプ攻勢でした。トランプはスイングステートのほか、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア等、ブルーステートの中でもトランプが追い上げている州を飛び回っています。そして行く先々で、とにかく仕事を取り戻すのだという演説を繰り返しています。BBCでは、トランプはなぜ劣勢州を回るのか(評価としては馬鹿にしているような内容です)という記事が出ているくらいです。
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37856669
一方、クリントンはスイングステート(特にフロリダ)と、オハイオ、ペンシルベニア、ニューハンプシャーを回っており、レッドステートでの逆転を図るところは全くありませんでした。本人の体力的な問題があったのかもしれません
http://news.livedoor.com/lite/article_detail_amp/12244678/

6)開票結果
今回の開票結果を見ると、ブルーステート18州+ワシントンDCのうち、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの北東中部の工業地帯は1%台の差でトランプ勝利。レッドステートは全てトランプ勝利。スイングステートはフロリダ(非常に僅差)、アイオワ、オハイオがトランプ。ニューハンプシャー、コロラド、ネバダ、ニューメキシコがクリントンとなっています。数字では差がついたように思えますが、フロリダ、オハイオ、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ミシガンのうち、3つをクリントンが勝つと逆転してしまうかなりギリギリの勝利です。人口統計学的属性ごとの得票率が出ていますが、これを見ると実は5万ドル以上の収入がある層ではすべてトランプが勝ち、黒人ではクリントンに大きく負けたものの、ヒスパニックではそこまで負けなかった(一時は99%クリントンに回るといわれていたくらいです)のがわかると思います。これがフロリダやオハイオでトランプが接戦をものにした原因です。

7)トランプの勝因
マスメディアを見ると、いろんな分析が出ています。怒れる白人の反逆だ、マイノリティへの怒りを掘り起こしたのだ、等々。しかし、実際にはトランプは敵と自分を分析し、的確に目標(フロリダやオハイオのヒスパニックを引き込み、ラストベルトを奪い取る)を定め、的確に行動をし、結果的に接戦をもぎ取って戦略的な勝利を勝ち取った、ということがはっきりしています。
したがって、トランプが、ただ単に極端で暴言をいうたいしたことのない人物だというのは大きな間違いです。データを分析して的確に必要なことを必要な時に実施できる優秀なチームを有する恐るべき人物であるのは間違いありません。

8)余談(データ解析の困難さ)
今回、マスコミの予想が外れた分析も多くされています。多くは隠れトランプ派の影響を訴えていますが、そもそも論として、これは疑問です。大統領選のデータ分析の困難さを示す記事が実は7月に出ています。
「ワグナーとショアは、世論調査を行う組織が今年、恥をかくことになるだろうと察知していた。さらにいえば、それは恥をかくかどうかではなく、いつ、どれほど深刻なものとなるかという問題だった。」
「現代の世論調査をめぐる状況は困難に満ちており、長らく業界を牽引してきたギャラップは、今年の大統領選の調査から撤退した。予測を誤って会社の看板に傷をつけるリスクが高すぎたからだ」
この記事を見て、果たして本当に問題が「隠れトランプ派」なのかはちゃんと考えるべきでしょう。マスメディアは間違った情報を自らの信念で信じてしまったのです。
http://wired.jp/special/2016/voting-machine/

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